この文章は、私が観察した、テノヒラ星で生きる生物の生態を記録したものである。この星に暮らす生き物はテノヒラと呼ばれ、彼らの身体は、手のひらでできている。手のひらでできているとは何かと問われても仕方がない。手のひらでできているとしか言いようがないのだ。それじゃあ、裏返せば手の甲なのかと問われれば、やっぱり裏返しても、手のひらなのだ。
私の知り合いに言わせれば、実はテノヒラは人類の進化系なんだとか、いずれ地球に送り込まれ平和を実現するだとか、なんだか言っているが、そんな話をされても説得力が無いので、そんなら見せてくれと、わざわざ彼女から望遠鏡を借りて、実際に星を観察してみることにしたのである。
さて、肌寒い秋の夜に、本を読む気も起きなかったので、彼女から借りた望遠鏡を覗いてみることにすると、確かに地球にそっくりな星、テノヒラ星がある。青色の星だ。高性能望遠鏡で、徐々に倍率を上げていくと、なかなか面白い。星の上で、何かが動いたかと思えば、ピンクと紫が混ざった雲であった。テノヒラを見るにはもう少し倍率を上げなくてはなるまい。外でじっとしていると寒さが滲んでくる。外に出る前に、トイレにでも行ってくれば良かったという考えがよぎったときに、ふよふよした生き物の集団が私の目に止まった。テノヒラである。
薄いオレンジ色をしたテノヒラ達は、小集団で暮らしている。なかなか気の抜けた見た目をしている彼らが人類の進化系というのは信じがたい。ずいぶん非力そうに見える。とは言え、我々ホモ・サピエンスとの生存競争に敗れたネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスよりも筋肉量があってたくましかったというから、そういうものなのかもしれない。武力ではない方法で生き長らえる生物ならば、確かに平和の使者となり得るかもしれないなと私は思った。だがそんならナメクジだって平和の使者である。テノヒラの何がそんなにすごいのか、私はますます知りたくなった。
可愛らしいテノヒラ達を見ていると、なかなか癒やされる。ただ一点、違和感があるのは、テノヒラには人間と同じように顔があるのだが、幾分か表情が固いように見受けられることだ。身体が手のひらでできていることを除いては、彼らが人間に近い見た目をしているからこそ、それが不気味に思えるのだろう。私が飼っているハムスターだって、本当は表情が固いのかもしれないが、私には泣いたり笑ったりしているように見えるのだから、表情が固いと感じるのは、私がテノヒラを人間と似たものとして捉えてしまっているからに他ならない。いかんせん外が寒いため、五分もすると、どうしてもトイレに行きたくなってきたので、私は観察を切り上げ、用を足し、布団で眠りについた。
よしのちゃん
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